住宅ローンは『返済比率』を基準にすると失敗する

「新松さん、うちの場合、『返済比率』を何%以下にした方がよいと思いますか?」

住宅ローンの勉強を少しされた人から、このような専門用語を使ってご質問をいただくことがあります。

あなたは、この「返済比率」という言葉を聞いたことがありますか?

文字通り「返済」の「比率」なのですが、「年収」に対して「年間ローン返済額」の比率(割合)として使われています。

年収500万円で年間150万円の返済なら、「返済比率は30%」ということですね。

住居費(ローン返済額)が年収の何%になっているのかを調べる指針にもなります。

また銀行も返済比率をひとつの基準として、住宅ローンの審査をしています。

〇〇銀行なら返済比率は25%以内、△△銀行なら返済比率は30%以内みたいな感じ。

おおむね30%以内としている銀行が多いのではと思います。

ネットやYouTubeでFPさんが「返済比率は〇〇%以内にしましょう!」みたいに言っているのをよく見かけます。

そんな記事や動画を見ているご家族から「うちは何%以内に抑えた方がよい?」という質問をされるのですが、私の答えはいつもこうです。

返済比率なんて関係ないですよ

はい、関係ないんです。返済比率なんて。

もちろん返済比率が高いよりも低い方が家計に占める住居費の割合が少ないので、ローンの返済が楽になる傾向はあります。

ただ、一概に「返済比率が高いからヤバい!」「返済比率が低いから安心!」というわけでもないんですね。

その理由、順を追って説明していきます。

30歳と59歳

例えば、同じ25%の返済比率だとしても、

①定年退職まで30年以上もある30歳と、

②来年には定年退職し、退職後は給料が直前の50%程度に下がってしまう59歳。

圧倒的に②の方が住宅ローンを返していくのが厳しそうですよね?

これは極端ですが、30歳と40歳とでも10年も働ける期間が異なりますから、若い方が有利なのがわかると思います。

さらに同じ公務員さんの場合、一般的には年齢が高い方が年収も高い傾向にあります。

前述の例で考えると、返済比率25%の場合、

30歳:年収500万、年間返済額125万円。

59歳:年収700万、年間返済額175万円。

こういうことです。

同じ返済比率でも、年齢が高い人の方が、圧倒的にローン返済は厳しそうなのが想像できるのではないでしょうか?

返済比率がいくら10%だったとしても、定年退職まで残り期間が10年未満なら、ある程度の貯金がないと厳しい未来が待っているでしょう。

日々の生活費は?

買いたいマイホームの価格が家庭毎に違うのと同じように、生活費も家庭毎に大きく異なります。

お金をかけるべきポイントというのは家計ごとに異なるものです。

例えば、

・家には興味ないが、趣味にお金がかかる

・食には興味ないが、家にはこだわりたい

・何よりも子供の教育にお金をかけたい

こんな感じです。

つまり、住居費の割合がいくら多くてもその他の生活費の割合が少なければ、家計は充分に回ることになりますし、

逆に住居費がいくら少なくても、それ以外の生活コストが高ければ、生活は成り立たない可能性があります。

将来的な世帯収入は?

返済比率を考える時の「年収」は、当然ながら「今現在の年収」を参考にするのが一般的です。

5年後、10年後の年収を考慮して計算することは、ほぼありません。

例えば、今は夫婦ともに正社員で勤務をしているが、子供の出産とともに奥様がパート勤務になるご家族がいるとします。

ご主人の年収が500万円だったとして、奥様の年収が今は正社員で300万円だが、パート勤務になると60万円になる予定。

こんな未来予想だったとしましょう。

この場合、現在の世帯年収は800万円ですが、未来の世帯年収は560万円です。

世帯年収800万円でローン返済が160万円であれば、返済比率は20%。

しかし将来、世帯年収が560万円となると返済額が160万円なら返済比率は29%です。

ローンの返済額は変わっていないのに、返済比率は10%も上がってしまいました。

これは、逆も然りです。

今は出産後で奥様の収入がないが、将来的に復帰することを考えていたり、

現在は週2、3回のパート勤務だが、今後は週5回のパートになるとか、世帯収入が増える見込みがあるなら返済比率という枠組みにとらわれず、ローンの借入金額を考えられますね。

年収を基準とするのは無意味

ここまでの説明で返済比率が全く参考にならないのが、理解できると思います。

返済比率を元に算出する借入金額は、年収を基準にローン金額を決めるのと同じで、ほぼ無意味です。

適正な予算というのは、そんな簡単に算出することができません。

年収や返済比率は「借りられる金額」の参考にはなるかもしれませんが、「返せる金額」の目安にはなりません。

このことは非常に重要ですので、しっかり覚えておきましょうね。

新松 尊英
札幌住まいのFP相談窓口代表。札幌で住宅会社の営業マンとして働いた後、中立的な第三者立場から住宅購入の相談ができる仕組みを確立するために独立。

保険や住宅を売ることを目的にせず、有料で相談を受けている住宅購入専門のファイナンシャルプランナー。そのスタイルが支持され、札幌市近郊を中心に累計1,000件以上の住宅コンサルティングをおこなっている。

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